見つめ直し

好きな事を少しやったら、物事が整理できてスッキリ出来たかも知れない。

俺は、これを壊せば自分の気持ちを吐きだせると思っていた。
これが壊れたら自分の心はすべて晴れると思っていた。

でも、そんなことはなかった。
それを壊した瞬間、そのほんの一瞬の快楽と共に、俺の心はまた沈んだ。

後悔の念だけが心に残り、現実に残ったのは飛び散った破片と赤くなった手。
何をどうしていいか分からず、その場に立ちすくんだあの時。

その硝子の向こうには快楽なんて待っていなかった。


今さっき、その硝子が張り返されて、昨日と何も変わらない硝子が目の前にある。
俺の手ももう手当てを受けて今はきれいなままだ。

何もかも直った…？　いや、ほんとは何も直ってなんかいない。
現実にあるものは消すことが出来ても、心にあるものは簡単には消えない。

俺の心は直った硝子を前にしても、後悔の念で埋め尽くされている。

何も、戻ってなんかいいない。


でも、戻して欲しくもない。

もし戻ってしまったら、俺はまた同じ過ちを繰り返してしまうから。
この後悔の念をまた味合わなければならない時が来るから。


だから、俺はこの思いを何時までも残しておきたい。
自分のために。　もう二度々こんなことしないためにも。

現実のものは直ってしまったけど、せめて自分の心だけはずっと直さずにとっておきたい。


まだ、終わりじゃない。
それだけも十分俺はラッキーなんだ。

さっき、大会の棄権を先生に知らせてきた。
一緒にダブルスに出るはずだった友達にも、謝罪のメールを送ってきた。

でもまだこれで終了じゃないから。
取り返しのつかない事をしたけど、一生戻って来れないわけじゃない。

これが最後じゃない。


俺は弱いし、最低だけど、それでも、まだそれを立て直すチャンスはある。

もう一度自分と言う存在を見つめ直そう。

閉じたと思っていた道が、また少しだけ、ほんのちょっとだけ、開いた気がした。

少しだけ、沈んだ気持ちが戻ってきた。そんな気がした。

だからもう、きっと大丈夫。